量子技術[最新事情]①

量子ならではのパワーって何?

2020.03.25

量子ならではのパワーって何?

Photo by Shutterstock

2/3

「量子測定」で量子のパワーを発揮させる

量子コンピュータは現在のところ、まだ量子のパワーが十分活かせていませんが、ものを「測る」時に量子を使えば、量子のパワーをいろいろと活かせます。この「量子計測」は、量子系を測るときにも使えるし、そうではない普通の計測にも使えて、これまでの方法と比較して格段に詳しく測れます。

たとえばある物質……仮にアボカドを想定しましょう。重量などはササッと測れますが、中の種の渋皮の表面を知りたいとか、しかもアボガドを切らずに知りたいとか、計測にはいろいろなニーズがあるものです。そこで量子を使って計測すれば、普通に測るよりも、もうちょっとディープな情報や知りたい情報だけを引き出せることもあるんです。

まず測りたい物とその外にある量子デバイスをうまく接続して、物の状態やそれがどう変化したかという情報を、量子デバイスの側に引き出します。物の側と量子デバイスの間に量子特有の「エンタングルメント」を持つ状態をつくるのがポイントです。これによって、物質のなかでも「ここが知りたい!」という局所的な部分の情報をとれるように工夫した計測をして、非常にミクロで高精細な情報を得ることができます。

現在広く使われている、核磁気共鳴(NMR)の原理を用いて物質を調べるNMR装置は、対象となる物質全体を知ることができますが、これは中にある分子の平均値を計測するものです。ちなみに量子計測では、こちらも測れます。

村尾教授も参加する新学術領域「ハイブリッド量子科学」では、量子計測や量子デバイスを含む、量子系をつなぐさまざまな量子技術が提案された。

村尾 美緒教授

「量子コンピュータ」で量子のパワーを発揮させる

量子コンピュータは古典の問題を解くこともできますが、現在のコンピュータ、つまり古典的コンピュータは量子の問題を量子コンピュータのように解くことはできません。量子コンピュータの概念を最初に提唱したファインマン(Richard Phillips Feynman,1918 – 1988)も、古典的コンピュータでは難しい量子の問題を解くために量子コンピュータを考えようという発想でした。古典コンピュータでは量子状態を作ることができないので、量子状態を作る問題であれば、量子コンピュータの勝ちはおおかたもう決まっている、ということになりますね。具体的な使い途としては、化学物質はなんでも量子なので、触媒を調べたり、創薬に応用したり、また肥料の研究などの化学シミュレーションも有望です。宇宙に目を向ければ、ブラックホールを模した実験などもありますし、原子核などの巨大な計算資源を必要とする古典計算を量子コンピュータで実行すれば速く解けるのではないかという提案も出ています。

ついでに、量子の問題を量子コンピュータで解くと、実は量子コンピュータを発展させるのにも役立つんです。なぜなら古典的コンピュータと違って、現在の量子コンピュータは情報処理のプロセスの各所で量子入力・量子出力の問題を解決してはじめて、全体を組み合わせたプログラムができてくるからです。それは、今ある古典のプログラムを量子化するみたいなことでは太刀打ちできない、新しい現象をコントロールしていこうという未踏の挑戦です。

村尾教授の最近の成果「2量子ビットのハミルトニアン動力学系におけるロバスト動力学制御」はこちらから。