量子情報の最先端をつたえる
Interview #010

ジェラルド・ミルバーン教授クイーンズランド大学
公開日:2014/01/15

量子光学の世界的な第一人者で、日本ではこの分野の教科書として有名な『量子光学』の共著者としても知られる、ジェラルド・ミルバーン教授。現在、オーストラリアのクイーンズランド大学「量子システム工学センター」長として、また理論物理学者として、量子的なシステムに関わるさまざまな実験チームを指揮しています。「ようこそ量子 Special」の第2回目は、ミルバーン教授へのインタビューを中心に、理化学研究所蔡兆申チームリーダー、根本香絵教授を交えて、ミルバーン教授が取り組む最新の課題や、これからの展望などについてうかがいました。

【1】なぜ量子「工学」なのか?

「量子システム工学」とは何か?

オーストラリアには2つの量子関連の研究センターがあります。ひとつは私がセンター長を務める「量子システム工学センター」、もうひとつは「量子コンピュータ技術センター」です。ということは、われわれの研究は、量子コンピュータ技術ではありません。では、いったい何を研究しているのでしょうか?──われわれの研究の背景にあるのは、ここ10年ほどの間に急速に進展してきた量子コンピューティング研究により、それ以前には不可能だった量子のコントロールが、実験的にできるようになってきたという事実です。かつて物理学では、原子や光子のようにミクロな現象を量子的に扱う研究から、量子力学的な発見が生まれました。そして今や、自然界にある原子や光子のように量子的に振る舞うシステムを、人間の手でつくることができる段階に入ってきているのです。

古典的な回路をそのまま量子化

このような量子システム工学の例のひとつが、超伝導量子ビットです。これは、実際に電子が流れる回路を構成している人工物で、原子1個、電子1個といったサイズに比べると、全体としては非常に大きいマクロなものです。つまり、原子や電子をたくさん集め、注意深く組み立て、コントロールすることによって、その中に量子的なふるまいが現れます。これが巨視的量子状態と呼ばれるもので、われわれは今、この巨視的量子状態の持つ電流・電圧、磁束など、回路そのものを量子的に、完全にコントロールできるようになってきました。ただ超伝導量子ビットの場合、システム全体を極低温に置く必要がありますが、そうすることによって、古典回路の方程式をそのまま量子化して適用することができるのです。

量子光学でいまホットな「薄膜」

もうひとつの例として、光力学系があります。光力学系では、たとえばドラムの打面のような膜が振動するものが用いられます。この膜をコンデンサ(蓄電素子) の電極とすると、そのコンデンサの電極が上下に振動するわけです。このコンデンサを先ほどの超伝導回路と相互作用させると、このドラム打面の振動 によって、超伝導回路の電圧の周波数を変化させることができます。これもシステムを冷却する必要がありますが、このようにしてドラム面にあるすべての原子がつくる膜の振動が、系全体として量子力学的に振る舞い、巨視的量子状態をとることがわかります。このようにして巨視的量子状態を、量子性を保ったまま取り扱うという操作が、ますます実現できるようになってきているのです。

量子の世界をのぞいてみよう
Welcome to the Quantum World #010

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