量子情報の最先端をつたえる
Interview #022

中村泰信 インタビュー#13;
公開日:2016/11/15

「量子情報の最先端をつたえるInterview」の第22回目は、東京大学先端科学技術研究センター 中村泰信教授の研究室を訪ねました。中村教授の実験室では、ようこそ量子でこれまでもご紹介してきた超伝導量子ビット(#001#009#010#021)に、その他の系を組み合わせたハイブリッド量子系の研究が進められています。これに加え、2016年10月にはERATO「巨視的量子機械」が採択され、量子コンピュータの実現へ向けた研究開発もスタートしました。中村教授に現在の取り組みと、これからの展望などをうかがいました。

【1】異なる系を組み合わせる「ハイブリッド」

超伝導量子ビット+αを考える

私の研究のバックグラウンドである超伝導量子回路は、超低温に冷やされた冷凍機の中の環境で動作し、マイクロ波で制御します。優れた量子系として、いま世界的に研究がどんどん進められています。しかし将来的に、例えばこの量子系から外部に量子情報を取りだそうとか、遠距離通信に応用しようとかいう場合には、どうしても不得手とするところがあります。この欠点を克服するために他の物理系と組み合わせて可能性を広げようというのが、われわれがハイブリッド量子系に取り組む理由です。遠距離通信を実現するには、光ファイバーを通して光で通信するというのが最も可能性のある方法なので、現在、超伝導量子ビットを光の量子情報通信技術とつなぐことを目指しています。

量子系をつなぐインターフェース

ところが残念なことに、超伝導量子回路は光と相性が悪い……というのは、マイクロ波と光は、同じ電磁波とはいえ、エネルギーが1万倍ほども違うんですね。光ファイバーを通ってくる光が超伝導回路に入ってくると、あまりにエネルギーが大きいため、そもそも超伝導量子ビットの量子状態を壊してしまいます。それを防ぎながら、どうやって量子情報をコミュニケーションするかが問題で、そのために、量子状態を媒介してくれるインターフェース、あるいはトランスデューサーと呼ばれる物理系が必要になります。ここがハイブリッド系の出番であり、超伝導回路とは別のシステムと合体させることでインターフェースの役割を担ってもらおうというわけです。

スピン波の量子である「マグノン」

そこでわれわれが採り上げたもののひとつが磁石です。われわれは「イットリウム鉄ガーネット」と呼ばれる、磁石としての性質を持っているガーネット結晶を使用しています。実は1950年代頃から使われていて、現在でもマイクロ波の発振器や、光通信ネットワークの中で光を一方向にのみ通すアイソレータとして役立っている、よく知られた強磁性材料です。磁石の中にはたくさんの電子が一方向に整列しており、エネルギーを与えると、コマのようにくるくる回る「歳差運動」をします。この運動がスピンの集団の中を伝わっていく波をスピン波といい、その量子がマグノンです─ちょうど光が電磁波であると同時に、その量子が光子であるのに相当します。われわれはこれまでに、自分たちがうまく制御できる超伝導量子ビットをツールとして用いて、マグノンを制御したりその量子状態を読んだりすることに成功しています。ここからさらに光に量子情報を伝えることが目下の課題です。

量子の世界をのぞいてみよう
Welcome to the Quantum World #022

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