量子情報の最先端をつたえる
Interview #023

アンドリュー・グリーンツリー インタビュー#13;
公開日:2017/11/15

量子情報の分野では、ダイヤモンドは「最も有望な材料のひとつ」としてよく用いられますが、このトレンドにはもちろん、始まりがあります。「量子情報の最先端をつたえるInterview」の第23回目は、ダイヤモンドを量子情報の舞台に上げた世界的なパイオニアのひとりで、来日中のオーストラリア RMIT大学(ロイヤルメルボルン工科大学)のアンドリュー・グリーンツリー教授にお越しいただきました。グリーンツリー教授は理論家として、現在豪州メルボルンのRMIT大学で実験チームを率い、基礎〜応用にわたる量子情報の最先端研究に活躍されています。量子情報におけるダイヤモンドの魅力から現在進展中のバイオロジーへの応用研究まで、最新の話題を巡ってお話しいただきました。

【1】ダイヤモンドのパイオニアに聞く

量子光学から量子情報への進展

私がダイヤモンドのNVセンターに取り組み始めたのは……なんと22年前です(笑)。まだ博士課程の学生で、どのように光が物質に相互作用するかという研究は「量子光学」と呼ばれていました。私は基礎物理を学び、非常に面白い物理がたくさんあったダイヤモンドに注目しました。ただ当時は、まだ誰もそれが量子コンピュータにつながるとは考えていませんでした。ところが1つ2つ論文が出たら、たちまちダイヤモンドの量子情報に関わる研究者コミュニティが形成されていきました。いつも新しい仲間が加わって、ダイヤモンドのここがいい、なぜならああだからこうだから……とわれわれが思っていなかったアイデアを持ってくる、そんな研究領域が活発に動き始めたのです。実際ダイヤモンドは非常に柔軟性の高い材料であり、今でもベストな系だと私は考えていますし、魅了され続けています。

「ダイヤモンドは高価なのでは?」

そう、それはよく聞かれる質問です。実際、私が初めてダイヤモンドの応用研究を提案した時、査読者が聞いてきたんです「なぜあなたは(わざわざ)世の中で最も高価な材料を使うのだ?」と(笑)。確かにダイヤモンドというと一般に、たとえば結婚指輪の宝石といったイメージを抱きがちです。しかしダイヤモンドはむしろ安い物質と言えます。私たちが使うのは天然ダイヤモンドではないし、ナノサイズのダイヤモンドは実際、袋一杯でいくらといった材料なんです(笑)。

ダイヤモンドからハイブリッドへ

さて、その後私は冷却原子やシリコンを用いた量子情報処理の研究等を得て、2004年に、より量子情報の視点からふたたびダイヤモンドに取り組むことになりました。ダイヤモンドのNVセンターの電子状態を 励起状態へ持ち上げると、1光子を得ることができます。このように物理現象を操作することによって、得られた光子を量子通信に使ったり、顕微鏡のカリブリーションに用いたりといろいろ使い道があります。幸運なことに、その後私は根本教授と共同研究を開始することになりました。量子テレポーテーションや電磁誘導透過などの研究を共同で始め、光と固体物理のハイブリッドというアプローチによって、量子コンピュータを進展させることができました。この機会に、新しい考え方に気がつき、それに基づいて研究を進められたこと、またこの機会を通じて、日本の量子情報の研究者コミュニティを知り、目が開かれたことは大きな実りのひとつでした。

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