量子技術[最新事情]②

そもそも量子コンピュータって……?

2020.03.25

そもそも量子コンピュータって……?

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近年、量子を使った新しい技術の開発競争が、アメリカ、ヨーロッパ、中国などで激しさを増しています。そこでは、量子通信や量子デバイスを含めた「量子によるICT」のイノベーションが、開発の焦点になっています。このような国際的な技術開発動向のなか、少し前にはGoogleが53量子ビットの量子コンピュータを発表した、というニュースがありました。量子コンピュータはこれからどう実現されていくのか? またこのことと最近競争の激しい量子技術とはどんな関係にあるのか?……国際的に活躍する研究者に聞きました。今回は、国立情報学研究所の根本香絵教授です。(プロフィールはこちら

53ビット量子コンピュータって、すごいんですか?

53がどういう数字かというと、率直に言って「すごい!」です(笑)。今までも、量子コンピュータを構成するための「量子ビット」が開発されてきましたが、操作できたのは数個、多くても10個ぐらいまで。つまり、これまでとは桁違いにたくさんの量子ビットを使って、コンピュータと言えるような操作が実際にできるようになったと言えます。

ただこのような量子コンピュータは、まだとてもエラーが多いんです。たとえば、私たちがふだん使っているコンピュータが「あ、間違った!」ということはまず起こりませんよね? それに比べると、確かに動いてはいるけれど間違いばかりというのが現況です。

根本 香絵教授

量子ビット数が増えたのは、なぜ?

急にサイズが大きくなったわけは、量子コンピュータ独自の「アーキテクチャ」に基づいたデザインで開発を進めるようになったからです。

そもそも、量子を制御するのは非常に難しい、高度な技術です。そこで量子ビット1つ、2つをどう作り、制御するかという開発がずっと続けられてきました。ただこの発想で、いきなり多量子ビットを実現するのは難しいため、まず量子コンピュータを「システム」として捉え、どういうシステムになるのか? 何を基本的な素子にしてどう組み上げればいいのか?──というように、核となるアーキテクチャを統合的に考える理論的な研究が進展していった経緯があります。これが大きな数の量子ビットを制御するための手引きとなり、また実験の技術も一歩一歩進歩して、さまざまな制御が実現されていったのです。

そして実際に、理論的に「これならいける!」と考えられるアーキテクチャに基づいて開発を進めたIBMとGoogleが、量子コンピュータの実現に成功しました。このインパクトを受け、日本でも理論に基づいた開発方針へとシフトしてきています。