量子情報の最先端をつたえる
Interview #006

サイモン・デヴィット助教 国立情報学研究所
公開日:2013/06/15

【2】「トポロジカル」が有望だ!

背景としてのトポロジカル・コンピューティング

スケーラブルな量子コンピュータを組み上げるためには、とてもたくさんのリソースを必要とします。情報を担う単位となるリソースは「量子ビット」と呼ばれ、読み出すまでは0であると同時に1であるという量子特有の「重ね合わせ状態」として存在しています。しかし量子的な世界は壊れやすく、「エラー訂正」という技術によって量子ビットが持つ量子情報を1つ1つ守ってやらなければなりません。「トポロジカル・エラー訂正」によって量子情報を守るトポロジカル・コンピューティングは、1997年にアレクセイ・キタエフ(Alexei Kitaev)が提案を行ったのが最初で、今世紀に入りロバート・ルッセンドルフ(Robert Raußendorf)らが発展させてきました。当時は数学的なモデルだったので、僕らはこれを具体的にシステムへ組み上げ、世界初の量子コンピュータのアーキテクチャを提案しました。一方、このモデルは非常に場所をとる巨大なものだったので、われわれは量子コンピュータの回路を最適化して、より少ない量子ビットで動くようにする必要がありました。

まだ解決していない「NP困難」

しかしながら、量子コンピュータ回路の最適化はとても複雑な問題であり、われわれはまだその最適解を手に入れていません。『meQuanics』のパズルは、コンピュータ・サイエンスの分野で知られる古典的な「パッキング・プロブレム」に似ています。パッキング・プロブレムはいわゆる「NP困難(NP-hard)」と呼ばれる問題ですが、『meQuanics』もそうかどうかについては数学的な証明がまだありません。NP問題では解くのが難しくても、解をチェックするのは簡単だという特徴があります。量子コンピュータの分野で有名な「ショアのアルゴリズム」は、素因数分解を解くものですが、このような問題も、答え(素因数)を見つけるのはたいへんだけれども、正しいかどうか(素因数のかけ算)をチェックするのは簡単ですね。ところがさきほどのNP困難は、見つけるのも、チェックするのも難しい。『meQuanics』でも、あるやり方が見つかってよさそうに見えても、それが最適かどうかを知ることはできません。でもよく考えれば、必ずしも最適解でなくてもいいんです。回路をうまく小さくして、そこに必要なリソースとして量子ビットが10,000個必要だとわかったとしましょう。もしかしたら最適解は9,900かもしれない。だけど10,000で十分素晴らしい! というわけです。ところがこのような回路の最適化に、これまでは私を含めて世界でたった2人しか取り組んでいなかった(笑)。これをパブリックに任せて、プレイヤー1人1人が行った操作を全部集めて、より速く解決法を見つけよう──
『meQuanics』を開発した大きな理由のひとつには、このような「ヒューリスティクス(発見的方法)」の考え方があります。

「ブリッジ」という名の新しいテクニック

このように『meQuanics』は、われわれの最先端の研究成果を、そのままゲームの中に再現したものです。ゲームのパズルは、われわれが2004年に初めて提案したトポロジカル・コンピューティングのモデルを基礎に作られています。またたとえば『meQuanics』の中で量子コンピュータをチューンアップする「ブリッジ」というツールは、1年前には存在しなかった、劇的にリソースを節約する極めて強力なテクニックです。2012年8月にドイツでコンピュータ・サイエンスの人と共同研究をしているときに、回路のルールをなんとか説明しようとして発見しました。パズルピースをなぜこう動かしてもいいのに、こう動かしてはダメなのか?──『meQuanics』のプレイヤーも、もしかしたら最初はわからないかもしれませんね。けれどももし間違っていれば、すぐにポップアップウィンドウが現れて教えてくれます。要するにゲームのルールですから、複雑すぎなければ何度もプレイしているうちに受け入れてもらえるのではないかと思っています。

量子の世界をのぞいてみよう
Welcome to the Quantum World #006

  • Pages:
  • 1
  • 2
  • 3