量子情報の最先端をつたえる
Interview #008

玉木潔 研究主任 NTT物性科学基礎研究所
公開日:2013/10/15

多くの物理学者たちが「21世紀最大の技術トレンド」と確信する量子技術。その試金石となるのが、実用化へ向けた開発が加速する「量子鍵配送(QKD)」です。日本で、そして世界各地で、現実の社会での運用を視野に入れたフィールドテストや、QKD導入を前提とした光ネットワーク構築が進められています。大量の予算と人材を投入して急発展する中国、また比較的狭い国土全体を覆う計画が進められるシンガポールなど、アジアの動きも活発です。『ようこそ量子』では、第2回にも採り上げた量子鍵配送ですが、今回は理論面を支えるNTT物性科学基礎研究所の玉木潔研究主任に、その最新の課題と探求についておうかがいしました。

【1】いよいよユーザ獲得期を迎えた量子技術

最先端の高度な技術がいよいよ身近に

「量子鍵配送(QKD)」は、通信に先立って送信者と受信者に共通の鍵を配信し、圧倒的に高いセキュリティを実現する通信技術です。どのくらいセキュリティが高いかというと「理論的に絶対安全」ということが分かっている。これが「量子鍵配送」の大きな特長のひとつです。インターネット等の情報通信が当たり前時代の中で、たとえば身近なスマートフォンなども、個人情報が漏れないよう安心して使いたい……このような潜在的なニーズを考えると、今後どうしても必要になってくる技術だと思います。今われわれは、盗聴者がしかけてくる「サイドチャンネル」対策や、ユーザ開拓を真剣に考え始めています。これは量子鍵配送が基礎科学段階から次のステップに移行しつつある証であり、理論家としては滅多にできない体験に立ち会っているということを、日々実感しています。

「理論的に絶対安全」な通信はどう役に立つのか

人々の情報セキュリティへの意識は、近年、上がってきていると思うんです。パソコンで更新プログラムを実行するとセキュリティ薄弱性対策ソフトがインストールされるとか、ネットで買い物をするときにサイトが安全かどうか確認するとか、多くの方がそんな体験を持っているのではないでしょうか。具体的に量子鍵配送がどんなことに使えるのかというと、日本では2010年に、テレビ電話会議を安全に行うフィールド実験「東京QKDネットワーク」に成功しました。海外でもいろんな取り組みがあって、同じく2010年に南アフリカのダーバンでサッカーワールドカップの試合中継に使われた量子鍵配送(University of KwaZulu-Natalによる)も、話題を呼びました。アメリカではハーバード大学やボストン大学を結ぶQKDのネットワーク「DARPA Quantum network」が、2004年から運用されています。また、量子鍵配送装置を持っているユーザ同士が自身のスマートフォンを使って絶対安全な通話を行うこともできます。

理論家と実験家のサイクルが問題を解決する

研究体制としては現在、2010年から始まった情報通信研究機構(NICT)の受託研究に取り組んでいます。実験家と深く関わって一緒に問題を解決するとか、QKD装置を担当する他のメーカーの方々と意見交換するといった貴重な機会に恵まれ、とてもいい刺激になります。実際にシステムを目の前にして、これはこういうふうに動いているんだという話を聞くと、ああ次はこれを解決すればいいんだなと、課題が見えてきます。理論家としても、研究テーマの宝庫なんです。量子鍵配送装置を構成するさまざまな量子的な光学素子は、なかなか理論通りには動いてくれません。でも、そういった問題に対して理論の人が対策を考え、それを実験の人にやってもらう。次に実験の立場から、その理論的な対策の欠点や困難さを指摘していただく。このサイクルを何回も繰り返して、一歩ずつ問題をつぶしていくという作業が、量子鍵配送の場合にはとても大事だと考えています。

世界の様子をながめてみよう
Welcome to the Quantum World #008

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