量子情報の最先端をつたえる
Interview #011

村尾美緒准教授 東京大学
公開日:2014/03/17

【3】ロジックと常識のギャップを突く

量子情報の醍醐味とは?

直感的にはあたりまえであることを、量子力学に従ってロジックで突き詰めていくと、一見非直観的だけれどもロジックはそんなことは言っていないということがいっぱいあって、その隙を突くのが量子情報だと思っています。だから私はロジックにこだわる。直感的なこととロジックにギャップがあるときに、必ずしもそうではないという状況でその非直感的な道具立てがばりばり使えるといったところが醍醐味でしょうか。量子力学のルールは比較的簡単で、4つぐらいしかルールがないと考えることもできます。そこで、これにすべて従って論理を組み立てていきます。量子であることから本質的には難しくなっているけれども、むしろシンプルな系を扱うことで、古典と量子の差も見やすくなります。

風がふけば桶屋がもうかる

量子力学のいわば"できないことリスト"として「No-go theorem」というものがあり、たとえば「正確なクローンをつくることができない」などが広く知られています。できないことを考える場合、もし何かができるならば、No-go theoremに触れるという理由によってできないことを証明する、といったやり方も常套手段のひとつです。直接的に証明できるケースはほとんどなく、こっちを経由させることであっちの背理法が成立して……というようにひとつひとつボタンをかけていくような作業です。その際、量子力学に特徴的な部分を使うということはよくあるのですが、……カンは必ずしもあたるとは限らなくて、「これは絶対できないね」ということをみんなで証明しようと研究していたら、できる方法が見つかったという場合も少なくありません。決して難しくはないのに、誰も思いつかないクエスチョンを思いつき、だけど解くのは簡単というのが、一番素敵な例ではないでしょうか。

量子力学・量子情報が提案できること

量子力学や量子情報という分野がおもしろいかどうかは別として、量子を学ぶことは、発想の転換に役立つことは、たぶん間違いありません。立方体の一方向からしか見えていなかったけれども、三次元で見たらこうで、全体として見たらこんな形だったといった理解を典型的に進めることができるのが量子なんですね。量子力学は、当たり前とロジックのギャップを見極めるツールである。ただ、ロジックを追求するということは決して論理操作のみに陥ることではなくて、むしろわれわれが物を考えたり、あたりまえだと思ったりしているその土台へ潜り込んで行って、土台を支えているところがいったいどうなっているのか、ちゃんと知りたいというような研究であると考えています。
(文:村尾美緒・池谷瑠絵 写真:ERIC)

村尾美緒准教授プロフィール

1991年、お茶の水女子大学理学部物理学科卒業。1996年、博士(理学、お茶の水女子大学)。博士研究員として1996年米国ハーバード大学、1996年〜99年英国インペリアルカレッジ、その後理化学研究所を経て、2001年より東京大学大学院 理学系研究科助教授、2007年より准教授。エンタングルメントの理論的研究等をはじめとする量子情報を専門とする。「じつは量子力学に出会うまでは、私は物理をやめようと思っていました」それが大学2年生ぐらいの頃だそうだ。「量子力学では、一見当たり前と思うことと違うことがどんどん起きて、これは面白すぎる、と(笑)」。以来「量子力学が当たり前」な研究生活に入る。

量子の世界をのぞいてみよう
Welcome to the Quantum World #011

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