量子情報の最先端をつたえる
Interview #019

小坂英男 教授 横浜国立大学
公開日:2016/03/15

【3】ハイブリッドで、小型化で、世界は回り始める

量子情報の研究はこの10年間に劇的に変化した

私は10年前にスピンの研究を始めたのですが、当時はほとんどなにもできなかったと思っています。現在までの間に、スピンがある量子状態を維持できる時間、つまり寿命がマイナス9乗秒ぐらいから0乗秒へ、9桁ぐらい長くなりました。この分野はずっと光が牽引してきて、長距離を飛ばすことができるし、加工も簡単だし、制御も量子テレポーテーションも何でもできるという時代から、やっと電子や核子などの物質が光に追いついて、同じ操作ができるようになってきました。物質に落とすことで、メモリーと呼べる時間の長さが保てるようにもなりました。

3回回すのが大変な時にアルゴリズムは語れない

しかし当時は物質ではたいしたことはできず、量子的状態にあることを証す「ラビ振動」が3回転したら世界が大騒ぎという時代だったんです(笑)。私はそれまで半導体を扱っていて、ダイヤモンドを使い始めたら最初の1週間で1,000回も回った。「1,000回回せるなら、たぶんいくらでも回せるだろう」と思いました。「だったら、もうダイヤモンドしかない」というふうに思ったんです。材料ややり方を変えると、苦労しなくてもいい世界がそこにあるということに、すごくショックを受けました。ひとつの分野に拘泥せず、ちょっと外を見る、試してみることは大事なんですね。つまり、ある意味ではとてもラクに、次のステージへ行けるからです。量子アルゴリズムは、3回回すのが大変な時には語れないことですよね。

ハイブリッドで、小型化で、量子の世界を広げることが物理の使命

ハイブリッド量子には最近小さいものと、大きいものとへ向かうふたつの流れがあると思います。大きいものの例としては超伝導量子ビットや、物質の振動子等、小さいものでは最近音子(フォノン)が注目を浴びています。音子などは「これも量子?」とちょっと意外に思うかもしれませんが、インターフェースとして世の中で役立つ可能性も大きいので、さまざまな量子の物理をしっかりやって、将来に蓄えておくべきだと考えています。また、量子の実験室も高価、大容積、極低温ではなくて、一般の家庭に届く技術に育っていくためには、小さなコンピュータで常温でできるようになっていく必要があります。回路をよりコントロールして、少しでも物を小さくしていくということも、量子物理の使命だと考えています。
(文:小坂英男・池谷瑠絵 写真:飯島雄二)

小坂英男教授 プロフィール

横浜国立大学 大学院工学研究院教授。1987年京都大学理学部卒、工学博士(京都大学、1999年)。1989年、日本電気株式会社 光エレクトロニクス研究所入社、2003年の退社まで、半導体と光に関連した実験で成果を挙げる。米国カリフォルニア州立大学ロサンジェルス校(UCLA)客員研究員等を経て、フォトニック結晶から量子の研究へ。2003〜2014年東北大学助教授(2007年より准教授)、2014より現職。「量子情報、これからの10年は?」の質問に──「古い先生みたいに僕は光だけ、ということはもうないんです。若い人がどんどん入ってきて、光だろうがスピンだろうがマイクロ波だろうがラジオ波だろうが、なんだってオッケーですよという時代になるでしょう」。

量子の世界をのぞいてみよう
Welcome to the Quantum World #019

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