量子情報の最先端をつたえる
Interview #020

トーマス・ブッシュ 准教授 インタビュー#13;
公開日:2016/5/16

近年、急速に発展する量子の実験的研究と、量子を量子デバイスや量子通信などのように実社会に活かしていこうとする「量子情報技術」の潮流から、量子の振る舞いに関する基礎物理学への多くの示唆が生まれています。人類が初めて再現できるようになったこのような新しい現象を洞察し、将来の量子情報技術の発展の礎となるようなアイデアや概念を扱う理論研究に取り組む、沖縄科学技術大学院大学 量子システム研究ユニットリーダー トーマス・ブッシュ准教授。人類がこれからますます量子を使いこなしていくと、これからどんなことが解明されていく必要があるのか、また解析によって最近見つかった新しい量子的な現象等について、お聞きしました。

【1】「量子システム」の世界

超流動は量子と量子がつくる「弱い相関」

私たちの研究の関心は量子の相関です。中でも大きく「強い相関」と「弱い相関」という2つの現象を取り扱っています。弱い相関で有名なのはボース=アインシュタイン凝縮(BEC)であり、これは1995年、Eric Cornell and Carl Wieman at the University of Coloradoによって、世界で初めてルビジウム(Rb)を使って実際につくられました。それから超流動も量子力学的な現象であり、これらを巨視的な量子力学的現象と言います。この中には未開拓なおもしろい現象がたくさんありますし、またそれらを量子システムの中で活用することで、何か役に立つことができそうです。一方で「強い相関」は、固体中にある電子や核子などの粒子において見ることができ、互いに強く相互作用していることが特徴的です。私たちは、これらの現象を解析的に解くことに興味を持っています。量子的な現象は、通常ひとつしか粒子がない場合は比較的簡単に解けます。2つはぐらいまでは、挑戦できるのですが、だいたい3つになると解けなくなってしまいます(笑)。また場合によっては粒子の数に関わらず解けるときもあります。─数が増えると難しくなるのは、ひとえに相互作用、つまり粒子間に相関があるからなのです。

「小さなBEC」が役に立つ!

BECは、ボース粒子と呼ばれる粒子が同一の量子状態をとり、全体でひとつの量子のように振る舞う状態をいいます。この状態がどのような物理的な性質を持つのかという興味もありますが、一方でBECは、比較的手軽に冷却原子を得る道具として使うことができます。そのような冷却原子を捕まえて、例えば格子状に配置すると、結晶構造のように見せることができるからです。しかし、BECはたくさんの原子が弱く相互作用しているので、なかなか解析的に厳密に解くことはできません。すでに、1次元に閉じ込められたBECを解析的に、厳密に解くためのさまざまな数学的な手法が開発されています。ただ、これらの手法も、例えば3次元の場合、異なる種類の原子(ボース粒子)も扱う場合等のように、いままでとは違う場合にも拡張できるかどうかはわかりません。最近では計算機の性能が飛躍的に伸びたので、数値的に解くというのもひとつの方法ではありますが、私たちが扱っているような、何を見ればいいのか、その方向性もわからないような問題については、ひとつのデータポイントを得たからといって、何かがわかるわけではありません。解析的な方法によって方向性を見つけていくことが重要だと考えています。

量子間の相関とその外側について考える

粒子を1次元の動きだけに制限すると、自由度が少ない分、数学的な取り扱いが容易になることが考えられます。そこに、例えば異種類の粒子を入れたらどうなると思いますか? ではまず、小さな谷を作っておいて、そこに原子を入れることを考えましょう。原子を送り込む前に、谷の真ん中に異種類の原子を1個入れておきます。異種類原子同士は反発しあうので、原子は真ん中だけ避けるでしょう。では、原子を入れてみます。すると、なんとこの真ん中の原子は光のビームスプリッターのように振る舞うのです。原子が谷を行ったり来たりすると、ちょうど干渉計のような働きをします。もう1つ原子を入れてみましょう。また光と同じように干渉計の中を行ったり来たりするように思えるのですが、ただし、今度は相互作用があります。もっと原子の数を増やしたらどうでしょうか? もっと複雑な現象が見えてきそうです。今5〜15個ぐらいの原子を入れてみた場合の現象を考えています。

量子の世界をのぞいてみよう
Welcome to the Quantum World #020

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