第26週:小さくなあれ、小さくなあれ。
2009-09-28掲載


『ふしぎの国のアリス 』の序盤で、
庭へ出ようとビスケットを食べるアリス。

というのも、一方は大きくなる
(ので、机の上にあるドアのキーをとることができる)
もう一方は小さくなる
(から、ドア下の穴から抜けられる)

というシーンがありました。

このくらいの伸び縮みなら、
人間もイメージするの、得意なんですけどね。

これが10の10乗とか20乗とかなると……
なかなかパッパと頭を切り換えられません。

なぜかというと、そういうスケールの違うことは
日常ではあまり体験されないからですよね。

しかし実は、そういうスケールの違う現象が
日常にいくらでも起きている。
そっちのほうへイマジネーションを
ちょっと切り換えて見てください。

というわけでスケール編も後半、
まいりたいと思います。


段落替え

●小さい数を表現する「マイナスn乗」●

わたし さあて、
今回は小さい方の話ですね?


リョーシカ
はい。


わたし 物理の世界で小さいというと
原子とか、分子とかでしょう。


リョーシカ ええ。
さらにもう少し小さいほうを見ると、
電子など素粒子の世界が見えてきます。

わたし
どのくらい小さいんですか?


リョーシカ
電子の質量は約9×10のマイナス31乗キログラム。


わたし ということは、
90000000000000000000000000000000


リョーシカ ニウモン猫さん、違います。
小さいんですよ。


わたし ががーん。そうだった。
0.0000000000000000000000000000009
確かに。
こうやって書くと小さい気がします。

リョーシカ そうかなあ。
あまりにもめんどくさくはないですか?
だって書くときも、読むときも、
いちいち数えなければなりませんよ。

わたし そうですねえ。
10の-31乗っていうほうが
やっぱり便利かも。


●化学反応を思い出すと……●

わたし だけど本当は、なんていうかな、
どっちで書いてもいいんだけど、
そういう小さな世界を
想像するのが、苦手なんだよな。

リョーシカ 確かに、私たちは、自分たちの
生活のスケールに合ったサイズには、
敏感にできていますよね。

わたし
うん。


リョーシカ だったら、そのスケールに置き換えてやれば
わかりやすくなりませんか?


わたし
ああ、なるほどー。


リョーシカ たとえば、炭素Cと
酸素O2が化学反応を起こすと、
CO2ができます。

CO2は、二酸化炭素ですね。

わたし
あ、そうか。



●炭素12グラムずつ数える「モル」●

リョーシカ 化学反応を考えるときには、
原子や分子がひとつずつ、
どのように反応するかを見ていきます。

ところが実際には、量がとても小さいので、
炭素原子ひとつ、とか
酸素分子ひとつ、といった量を
取り扱うことができません。

そこで「モル」という単位が
登場するのですよ。

わたし
「モル」は「モルモット」のモル!


モル

リョーシカ いや、そうではなくて、
炭素原子を12グラム分取ってきて、
これを1としたのが「モル」という単位です。

12グラムなら測りやすいですよね。
ただし、12グラムもあるのですから、
その中に入っている原子の数は
相当なものです。

それがいくつあるか?、というふうに
正確な数を追っていくと
また小さな数を扱う問題に戻ってしまいますから
化学反応をみるには、
この1モルというあたりにスケールを合わせて
見ていこうというわけです。


わたし うーん。
スケールと精度って、
意外と関連してるんですねえ。



●化学反応を見るのに便利な「アボガドロ数」●

リョーシカ 炭素を12グラムとってきましたが
これがなぜ12かというと、
質量からきています。

原子はそれぞれ持っている質量が異なり
その比がわかっています。

たとえば炭素Cと酸素Oなら
炭素:酸素 は、12:16 となります。
※炭素原子は基準値なので12ですが
酸素原子はおよそ16(15.9994)です。

すると、炭素原子12グラムの質量に対応して
同じ数の酸素原子を取ってくるには、
16グラム必要です。

さらに今使おうとしている酸素分子は、
Oではなく、O2ですから、
16の二倍、32グラム必要ということになります。

わたし
ふむむ。


リョーシカ モルというのは、
原子とは限らず、分子になっていれば分子で数えます。

先ほどの例ならば
炭素原子1モル(Cを12グラム)
酸素分子1モル(O2を32グラム)
が化学反応したら二酸化炭素1モルができます。
二酸化炭素1モルは、44グラムです。


わたし 炭素原子12グラムの質量を基準にしてるのに
扱うものによって重さが違うというのが
ちょっと迷うけど、
同数とってくるんだから、
1つで重いものは、とってきた1モルも重くなる
というのは当たり前、なんですね。


アボガドロ数

リョーシカ ではその「同数」というのはいくつか
と数えると、およそ6.02×10の23乗個であり、
これをアボガドロ数といいます。


わたし なるほど。つまり……
1モルとってくれば
いつも必ず、アボガドロ数個
入っているわけですね。

うーん、ニウモン猫も
ちょっとスケールの違うことを
考えなきゃいかん。

リョーシカ 大きいばかりがいいのではありませんよ。
さて今回は、
小さいスケールを見る時の話でした。

今週は、このへんで。


段落替え

いかがでしたか?

そうはいってもしかし、
頭の中のスケールを切り換えるのって
結構大変な思いをしたりします。

『週刊リョーシカ!』で
ぜひ鍛えてみてくださいね。

ではまた来週。

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