量子情報の最先端をつたえる
Interview #001

仙場浩一特任教授 国立情報学研究所
公開日:2012/07/13

研究の現場から、量子情報の今をつたえるInterviewシリーズです。第1回は、ダイヤモンドと超伝導量子ビットを直接組み合わせたハイブリッド系の量子状態制御に、世界で初めて成功した仙場浩一特任教授(国立情報学研究所)。昨年10月、NTT物性科学基礎研究所大阪大学国立情報学研究所の共同研究で得られたこの成果の内容と、その意義、これからどう応用されていくのか等について、なるべくわかりやすくご説明いただきました。

【1】量子コンピュータに有望なのは光、それとも超伝導?

キーワードは「ハイブリッド」

何ができたのか?──成果の内容をひとことで言うと、量子情報処理をハイブリッド量子系で行うための具体的な方法を、実際に組み合わせて見せた、ということなんですね。ちなみに「ハイブリッド」というのは、5年ぐらい前から言われるようになってきていて、量子コンピュータという究極のゴールへ向かって、光なら光だけというのではなく、いくつかの材料を組み合わせて構成していこうという考え方です。……現行のコンピュータを見てみなさい、と。演算素子はトランジスタが、記憶装置は磁性体が、通信部分は光が、それぞれの材料で、適材適所でやっています。それよりも高性能なコンピュータを作ろうとしているのに、1つの材料でできるわけがないでしょう……ということなんですね。

アルミの超伝導体で量子ビットをつくる

われわれが行ったのは、具体的には、超伝導体とダイヤモンドを組み合わせたハイブリッドです。クリーンルームの中で、シリコンの基板の上にアルミニウムを蒸着させ、アルミ→酸化膜→アルミという三層構造をした回路を作ります。ところで超低温に冷却したときに、電気抵抗がゼロになるのが、超伝導現象ですね。アルミニウムが超伝導になる温度は1.20ケルビン(K)なので、エネルギーの下限温度である「絶対零度(0ケルビン)」よりも1.2度だけ高い程度の極低温が必要です。そこで作った回路を希釈冷凍装置に入れてだいたい一晩ぐらいで、30ミリケルビンまで冷やされたところで、超伝導回路が量子2準位系(量子ビット)として振る舞うようになります。この外側に配した別の回路からエネルギーを与えてやることによって、超伝導体内の電子の流れを右回り/左回りにつくることができる。超伝導体は、回路上の電子の流れの向きで1量子ビットを構成します。

量子の世界に特徴的な「重ね合わせ状態」

現在のコンピュータは、1か0かで1ビットを表すデジタル信号をやりとりしていますが、量子情報処理ではこの「ビット」の代わりに、重ね合わせ状態を用いた「量子ビット」が計算の基本単位になります。「重ね合わせ状態」というのは、0であると同時に1であるという状態で、波であると同時に粒子であるという量子力学の基本原理に基づいた、量子に特徴的な状態です。そこでより具体的に言うと、この超伝導体で作った量子ビットから、ダイヤモンドの不純物にあたる「NV中心(→図を参照)」の電子スピン集団に、量子特有の重ね合わせ状態を移すことができたというのが、われわれの成果なんです。現在の──つまり量子から見ると「古典的」な──コンピュータでは取り扱えない量子的な状態を、現実に移すことに成功した、そこが、今までにはなかった画期的なポイントなんですね。

ダイヤモンドを「量子メモリー」に

ところで量子的な状態は、非常に壊れやすいという特徴があります。これが大問題のひとつで、ミクロの世界で量子性を保つ時間(←コヒーレンス時間と呼びます)を長くするには、どんな物質がいいのか、どんなファクターが効いているのかという課題への挑戦が、世界中で行われています。そのような中で、室温でミリ秒以上もの長いコヒーレンス時間を持つ有力候補のひとつが、ダイヤモンドです。超伝導量子ビットから重ね合わせ状態を受け取ったダイヤモンドが、長いコヒーレンス時間を保ち、原理的には再び超伝導量子ビットへ読み出すこともできる──われわれのダイヤモンドは、量子通信や量子情報処理の「量子メモリー」として使える可能性も示すことができました。

量子の世界をのぞいてみよう
Welcome to the Quantum World #001

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