量子情報の最先端をつたえる
Interview #001

仙場浩一特任教授 国立情報学研究所
公開日:2012/07/13

【3】極低温の冷凍庫から、ついに室温の世界へ──

情報処理のすべてのパーツを量子的に

現在のコンピュータはすでに量子的な効果を利用していますが、このようなかたちではなく、情報処理のすべてのプロセスが量子的な状態のまま実現できるようになるためには、情報処理を構成するパーツもすべて「量子的」なものが揃ってこなくてはなりません。パーツ間で情報をやりとりするときも、もちろん量子的な状態を壊さずにそのまま移さなければならない、これが本来の「量子情報処理」です。われわれも現在、長いコヒーレンス時間を持つダイヤモンドを量子メモリーとして、高速演算が得意な超伝導量子ビットを量子ゲート(演算素子)として、適材適所に使うための精度向上に取り組んでいます。

ダイヤモンドを量子周波数変換素子に

またもう一つ、われわれが期待しているのは、今回の成果が、超伝導のエネルギーの世界と光のエネルギーの世界とを結ぶ素子(デバイス)に発展しそうだ、という点です。今までは超伝導は極低温の世界、一方の光はどこにでもあるものの、互いのエネルギーが数桁違うので、互いにほとんど別世界でした。ところがダイヤモンドのNV中心は、超伝導に合うマイクロ波レベルの小さなエネルギーと、光の波長に合った大きなエネルギーレベルを併せ持っていて、この2つの世界を結ぶのにたいへん都合がよいのです。NV中心は光とも量子的に相互作用できることがわかっているので、超伝導量子ビットから光子へ量子的な状態を移す「量子周波数変換素子」がつくれるだろうと考えています。これがうまくいけば、超伝導量子ビットが担っていた情報が、ついに希釈冷凍装置から外へ出て行けるようになります。

超伝導と光を結び、量子暗号の量子リピータに

このようにハイブリッド系の量子状態制御では、ひとつの成果が、さまざまな素子に発展する可能性があります。超伝導回路は強い相互作用を起こすことができるので、たとえば今度は、逆に光子を希釈冷凍装置の中へ引き入れて、超伝導量子ビットと直接相互作用させる。もしこれが実現できれば、量子暗号などの量子通信を中継する量子リピータ(量子中継器)として役に立つでしょう。量子状態を遠距離に送る媒体には光ファイバーが用いられるので、NTTにあるわれわれの希釈冷凍装置と東京大学にある実験装置を光ファイバーで結んで量子状態をやりとりする──そんな夢も、そろそろ現実へ向かって歩み始めています。
(文:仙場浩一・池谷瑠絵 写真:ERIC)

仙場浩一特任教授プロフィール

国立情報学研究所 量子情報国際研究センター研究支援統括者、特任教授。NTT物性科学基礎研究所 量子電子物性研究部 超伝導量子物理研究グループ 客員研究員。専門は凝縮系物理(超伝導)、量子情報。1983年東京大学理学部物理学科卒、博士(超伝導工学、東京大学)。1985年日本電信電話株式会社(NTT)入社、2002〜2003年デルフト工科大応用物理学科 客員研究員を経て、2003〜2012年NTT物性科学基礎研究所グループリーダー。2008年より東京理科大連携大学院教授。

量子の世界をのぞいてみよう
Welcome to the Quantum World #001

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