量子情報の最先端をつたえる
Interview #004

水落憲和准教授 大阪大学
公開日:2013/01/15

【3】室温で動作する量子デバイス

光とスピンのハイブリッドで

NV中心は、特に光と組み合わせることによって、光でスピンの状態を観測したり、読み出したりできる点が重要ですね。NV中心は光を当てると波長の違う光を返してくれるので、この性質を利用してスピンの検出や読み出しを行います。それから光は通信に向いていますので、量子鍵配送の素子として欠かせない単一光子源としても期待できますね。それから量子通信の際、一定間隔に設置して、量子もつれ状態(エンタングルメント)を配信する量子中継器や、また将来的には量子コンピュータのプロセッサの一部を担う量子レジスタなど、いろいろな応用が考えられます。

バイオも分子からナノ領域へ

また、NV中心を超高感度なセンサーとして使うこともできます。ダイヤモンドというと、一般にサイズの大きいものが珍重されますが、非常に小さな人工の「ナノダイヤモンド」もあるんです。これを生きた細胞の中に入れてやると、スピンが返してくれる光を検出することができます。その光をモニターして細胞がどう動いているのか、蛋白がどう動いているのかなどを知る「プローブ」として使えるんですね。ナノダイヤモンドを注射で細胞に入れ、イメージを取得する研究も、もう実際に行われています。スピンが持つ情報も活用することによって、位置だけでなく流れの向きや、細かい動きまでわかるのもユニークな点です。またすでに商品化されているセレン化カドミウム(CdSe)等に比べて、炭素なら一般に毒性がない点や、分子と比べて非常に安定なのも利点です。創薬やタンパク質の研究といったバイオ分野で、いま非常に多くの人に注目されていますね。

「究極の量子デバイス」の果てに煌めくもの

このような量子暗号通信、量子コンピュータ、バイオ分野への応用はまさに私たちの夢です。盗聴者がいれば必ず検出できる安全な通信、ある種の計算ではスーパーコンピュータよりも桁違いに高速に計算できるコンピュータ、これまでにない超高分解能なセンサーが実現すれば、社会へ与える影響も測り知れません。それらへの応用が実現するよう、日々研究に励んでいます。特に最近注力しているのは、スピンを電気的に制御できないか、という研究です。ダイヤモンドが「室温で」動作することを考え併せると、電気的な制御ができれば、将来の応用もきっと進むに違いありません。──量子の世界は現在、理論と実験とで共同作業をしている段階にあります。理論提案も実験の現況を踏まえたかたちでなされてきており、自分の持っている技術でどこまでできるのか、これからも挑戦を続けていきたいと考えています。
(文:水落憲和・池谷瑠絵 写真:ERIC)

水落憲和准教授プロフィール

大阪大学大学院基礎工学研究科(物質創成専攻)准教授。2000年東北大学理学研究科卒、理学博士(東北大学)。2006〜2009年にかけて3回にわたりシュトゥットガルト大学物理学科にて研究後、2008〜2012年科学技術振興機構 さきがけ研究員(革新的次世代デバイスを目指す材料とプロセス)等を経て、2010年より現職。専門は電子スピン共鳴(ESR, Electron Spin Resonance)。「先端へ行くほど広くできなければいけない」と、実験装置も自作する。

量子の世界をのぞいてみよう
Welcome to the Quantum World #002

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