偏光量子もつれは量子情報の王道!?
量子もつれでよく実験されているのは、「偏光量子もつれ」です。たとえばひと組の光子があったときに、両方とも同じ偏光を持っているのか、あるいは反対の偏光なのか、といった違いを制御します。偏光量子もつれのタテ偏光/ヨコ偏光という状態と、量子ビットの0/1の値が非常によく対応するので、量子計算や量子通信のデモンストレーションするのに好適です。このため偏光量子もつれ状態の制御・検出・解析手法は特にここ20年ぐらいの間に非常に発達し、確立されてきました。私も最初は偏光もつれに取り組んでいたのですが、今やりたいと思っているのは、実はもう少し光科学的な観点から新しい展開が見いだせないか、ということなんです。
半古典の分光学
光科学の伝統的な一分野で、光と物質の相互作用を扱う「分光計測」という研究分野があります。この分野は光をプローブとして使って、知りたい対象を調べようというもので、特に半導体のような物質の内部の電子状態を知るのに役立ってきました。対象を見るために光をあてるということは、光と物質の相互作用であり、これを量子力学的に見れば、光だって量子情報的だということになります。ところが従来の分光学では、見たい物質のほうは量子的に、見るためのツールである光は古典的に扱ってきたんですね。この手法を半古典理論と呼びますが、これからは光のほうも量子的に扱うことで、分光の手法がずいぶん変わってくるように思うのです。光科学の応用分野は、読み取り・読み出しだけでなくイメージングのようなものまで非常に広範囲なので、根本を支えている光の原理が変われば、大きく変革する可能性があると思っています。
光の強度を分光するというセンス
ところで現在広く行われている分光計測では、光を色ごと、時間ごと、というふうにいろんな物理量で分けながら、スペクトルの情報を得るといった実験が広く行われています。一方量子光学では、まず光子1個1個をきちんと分けて計測することが、最初の課題でした。この「光を数で分解する」ということは、言い換えれば光の強度で分光するということでもあります。このように考えてみると、分光学においては、今まで光のいろんな要素が分解されてきたのに、光の強度だけは分光の対象にされなかった。そこを測ってあげれば、いままで見過ごしてきたような光と物質の相互作用が見える可能性があるんじゃないか、と思っているんです。