量子情報の最先端をつたえる
Interview #007

清水亮介 特任准教授 電気通信大学
公開日:2013/08/15

【3】フォトン制御のロードマップ

周波数量子もつれ光子とは?

光には偏光のほかにも周波数という自由度があります。私の実験室で取り組んでいるのが、この周波数という自由度に着目した「周波数量子もつれ」光子です。偏光の場合は基本的にはタテ/ヨコという2つの自由度がありますが、周波数の場合は基本的には連続的に無限に拡がっているんですね。したがって数学的には自由度が2つしかないのか、あるいは連続的に拡がっているのかという違いがあります。そして2つ以上の光子があったら、それぞれの周波数はどうなっているのか、そこに関係性のある状態をつくろうとしています。たとえば一方の光子が高い周波数を持っていたら、他方は必ず低い周波数を持っているという状態。あるいは、2つの光子が必ず同じ周波数を持って分布している状態。この2種類のコントロールが、今できるようになってきています。

模式図で、球で表される光子の大きさは?

ところで私も説明図を書く時に、よく光子を「粒子」状に描きます。というのも光子は概念的には粒子であり、大きさがあるので、図にすると円い形になってしまうんですが……、実はこれ、特に意味はないんですね(笑)。描いた粒の大きさにも意味はないし、形が円いことにも意味はない。つまり量子力学的には、光も電子も基本的には確率的に時空間的にどのように分布しているかということしかわからないからです。では具体的に周波数量子もつれ光子はどうなっているかというと、まず1つのパルスの中に2つの光子があって、光子1つ1つの中にそれぞれの周波数の分布があります。太陽光をスペクトル分析すると、周波数の分布が得られますね。この光をぎゅーっと絞っていって光子1個になっても、やはりその1個1個の中に周波数の分布がある、つまりいろんな周波数の光が入っていると考えることができるわけです。この状態は「重ね合わせ状態」なので、どういう周波数の成分を持っているかは確率的にしか決まっていません。レーザー光を弱めた光では、1個1個の周波数の成分は全く独立した確率で決まります。しかし、周波数量子もつれ光子では1つの光子の周波数成分が決まれば、もう片方の周波数成分も決まってしまうのです。

時間領域を測るのが難しい

実験では、コントロールしたい状態の周波数量子もつれ光子を生成して、いろいろ測ってみて、思った通りの状態が生成できているかどうかを確認します。周波数で制御するということは、たとえば1つの光子はパルスの真ん中のあたりに、もう1つは必ずパルスの後ろの方にある、という状態を制御することでもあります。したがって、周波数で制御できるということは、時間制御ができるということとほとんど等価なんですね。しかし光子が時間的にどういう分布を持っているのかを測るのは、非常に難しい。ここは偏光もつれとは異なる部分で、周波数量子もつれ光子では技術的な課題がまだまだあるんですね。

多色光レーザーに対応するようなフォトン制御を目指して

現在に至るレーザー光の発展の歩みに照らし合わせてみると、光子1つ1つの制御は、レーザー光における単一モード、つまり周波数を一個しか持っていないような単色光のレーザーの研究に相当するんだろうと思うんです。これに対して今やろうとしているのは、レーザー光におけるマルチモード、たとえばより多色の光をつくるといった制御を行うことに対応するものです。光子1つ1つを数として扱いながら、光のパルスや周波数がいくつもあるような状態をコントロールする。レーザー光の制御は現在どれも確立されていますが、これを光子のレベルで実現していけたらと思っています。
(文:清水亮介・池谷瑠絵 写真:ERIC)

清水亮介 特任准教授プロフィール

電気通信大学先端領域教育研究センター特任准教授。1998年大阪市立大学理学部物理学科卒、大阪大学大学院基礎工学研究科卒、理学博士(大阪大学)。科学技術振興機構 さきがけ専任研究者等を経て、2010年より現職。専門は量子光学、なかでも「周波数量子もつれ光子」の制御に取り組む。もともとは分光学の研究室出身という清水准教授。「量子情報というとどうしても敬遠されがち。光物性の研究者などの注目を集めるような、光科学と接点を持てるかたちで展開できないか」と、若い分野に挑む。

量子の世界をのぞいてみよう
Welcome to the Quantum World #007

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