量子情報の最先端をつたえる
Interview #015

大森賢治教授分子科学研究所
公開日:2015/04/15

ようこそ量子2015年度の最初のお話は、分子科学研究所の大森賢治先生にお聞きしました。原子、電子ひとつひとつまでコントロールされた物質を、量子的な状態が保たれた「コヒーレント」な状態に維持し、光と相互作用させたりすることによって、量子から古典へ、古典から量子へと移行する「プロセス」を捉えようという実験室におうかがいしました。今回はその前半部、大森研究室の挑戦の基礎であり、動機ともなっている「量子力学」について教えていただきました。

【1】まず、電子は粒子なのか波なのか

物理的に明確に区別される2つの現象

電子は非常に軽いけれども、れっきとした質量を持つ、実在する「粒子」ですね。ところで、粒子と波は、明確に区別される物理的な性質をそれぞれ持っています。粒子は空間のどこかにある、つまり空間的に「局在」していますが、一方、波はそうとは限らない。ずーっと広がっていても構わないわけですね。したがって波は空間的に「非局在」です。また粒子同士はぶつかると跳ね返りますが、波は跳ね返らず、2つの波が重なり合って強め合ったり、弱め合ったりします。これを干渉といいます。粒子と波は、この2つの現象によって明確に区別される物理的な性質である─これが第1点です。

「干渉」は波である証拠

このように干渉は波に特有の現象です。たとえば池に石ころを2つ投げ込むと、それぞれの石から波紋が広がります。2つの波が干渉して、明るい部分と暗い部分とが交互に現れます。この縞模様を、光について観測したのが、トマス・ヤングというイギリスの物理学者ですね。1805年頃、彼はたいへん革命的な実験を思いつきます。一端に光源を置いておいて、二つのスリットを通して、光がもう一端に置かれたスクリーンに当たるようにしておきます。もし光が波ならば、スリットがさきほどの石ころのような役割をして波紋が広がり、明るい・暗いの縞模様として観測されるはずだ─これが有名な「ヤングの実験」(→#003図参照)です。実際、縞模様が現れたことによって、彼は「光は波である」と結論づけます……まあ、光は電磁波で質量がないので、不思議なことじゃないんですけど。

質量を持つ粒子が非局在化する!?

でも、もし光の代わりに電子ならばどうでしょうか? 電子は光と違ってちゃんとした質量を持つ粒子です。そのような粒子が、ほんとうに波のような振る舞いをするのか?─ヤングの実験の光源を電子銃に置き換えた実験に、1989年、外山彰(1942-2012、当時は日立製作所・基礎研究所)さんが成功します。スクリーンで電子の到来を待ち伏せていると、最初は予想通り、スクリーン上にドット(粒)として観測されるのですが、時間とともにドットが蓄積されていきます。すると驚くべきことに、最終的にはスクリーン全体に、波に対してしか観測されないはずの干渉縞が現れるのです。

量子の世界をのぞいてみよう
Welcome to the Quantum World #015

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