量子情報の最先端をつたえる
Interview #015

大森賢治教授分子科学研究所
公開日:2015/04/15

【2】量子力学の大問題と大論争

ニールス・ボーアの提案

物質が粒と波の両方の性質を持っている……というのは物理学にとって、実は非常に大きな問題です。物質のこのような側面を、いったいどう理解したらいいのか? 時代をさかのぼると、この問題に対して最初に重要な概念を提唱したのは、ニールス・ボーア(1885 - 1962)でした。量子力学以前の物理学である古典論によれば、一方で波、他方で粒子であるという2つの記述が排他的であるならば、どちらかが間違っていることになります。しかし彼は、2つの性質は排他的だけれども、観測対象の性質を完全に記述するためには両方が必要である、という「相補性」の概念を提唱しました。これはある意味、非常にプラグマティックなものの見方であって、つまり対象が粒子に見えるか、波に見えるかは、どうやって見るかによるんだよ、とボーアは言ったのです。しかしそのことを自分で咀嚼してみて……ほんとに理解できるでしょうか? すべてを説明できるでしょうか?

非局在的に確率的に存在する!?

ボーアは、測定前の状態は確定することができず、いろいろな状態がある確率で重なり合っているのだ、と考えます。そして観測した瞬間に、確率的に存在していたいろいろな状態のうちの「どれか」に、決まってしまうと。この考え方は、今では重ね合わせ状態の「収縮」と呼ばれています。しかしボーアの提案は、どう起こっているかを説明するものではなく、このように解釈すれば実験事実をよく説明しますよ、というものなんですね。決定論的な世界観から、確率論的な世界観へ─ここに世界についての考え方の大きな変化が起こります。量子力学は、このボーアの「相補性」と、波動関数の振幅の二乗が粒子の存在確率になるという「ボルンの確率解釈」、測定そのものが対象の物理状態を乱してしまうことを示した「ハイゼンベルクの不確定性原理」という主に3つの概念に基礎づけられた「コペンハーゲン解釈」によって、前世紀を通じて大きく発展してきました。

アインシュタインの大反対

ところでアインシュタイン(1879 - 1955)は、コペンハーゲン解釈を受け入れませんでした。因果律を重視するアインシュタインは、根っこに、理論はすべて簡潔で美しくなければならないし、常識と合っていなければならないという考えを持っていました。1920〜30年代にかけて、アインシュタインとボーアは、量子力学の世界観について有名な議論を交わします。その中でアインシュタインは、量子力学はたいした理論だと認めた上で、古い理論で解けなかった秘密に近づいているとは言えない、役に立つけれども自然をよりよく理解したとは言えないんだと反論しています。そして物質の状態が確率論的に決まることはないし、初期状態を与えれば結果は一意に決まるはずである、と信じているわけですね。この議論は戦争によって断ち切られてしまいましたが、もし続いていたらどう決着したでしょう? 当時は実験技術が発展していないため、ある程度しか議論を進められないのは確かですが、ひょっとしたら?……と思うと残念ではあります。

世界の様子をながめてみよう
Welcome to the Quantum World #015

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