量子情報の最先端をつたえる
Interview #016

石崎章仁特任准教授 分子科学研究所
公開日:2015/06/15

【3】枯れないためのスイッチング。

エネルギーを運ぶためのベストバランス

光を吸った植物のアンテナは、エネルギーを得て励起状態になっており、このエネルギーが量子学的な非局在化によって円環状に広がっていると考えられます。アンテナは隣のアンテナを次々に経由してエネルギーを反応中心に運ぶのですが、その際、いつエネルギーが飛び移るかわからない、ランダムな状態に置かれているとあまり効率がよくありません。むしろ、量子力学的に周囲と相互作用し、ふわーっと非局在化しておいて、ゆらぎによってその相互作用を切り離すと,エネルギーをポンと隣へ渡すことができるはずです。このようにして非局在化とゆらぎを運搬のドライビングフォースとして使っているのではないか、と考えています。ゆらぎが大きすぎても、エネルギ−はうまく運ばれない。ゆらぎがなければ、エネルギー固有状態にトラップされてしまって、何も起こらない。非局在化を作ろうというポジティブな効果と、それを破壊しようとするネガティブな効果のバランスが、天然の光合成系でオプティマイズされているんだと思います。

植物は歩けない。そこで……

もうひとつ最近、とても注目しているのは……植物って歩けないですよね(笑)。僕ら人間は歩けるので、暑ければ日陰に隠れることできますけども、植物は暑くてもがまんしなければいけない。植物やバクテリアも、太陽光を浴びすぎれば自分のタンパク質を破壊してしまうため、太陽光が弱い時は必死に集め、太陽光が強くなると集めなくなるという「スイッチング」があるらしいんです。そこに量子力学が重要な役割を果たしているかどうかはわからないのですが、植物生理学的にそういう現象があるというだけでなく、僕はその物理過程を理解したいんですね。環境の変化に応じて自分自身の機能をくるっと変えてしまう知恵がどうもあるらしい。もともと量子力学から入っていった光合成研究なのですが、今は植物生理として意味のあることにも挑んでいきたいという感じになってきていますね。
(文:石崎章仁・池谷瑠絵 写真:水谷充)

石崎章仁特任准教授プロフィール

2008年、京都大学大学院理学研究科博士課程修了、博士(理学)。光合成系が光をとらえる機能の解明を通して、生物の分子世界の自律的なコントロール・システムの解明を目指すのが専門。2008年、カリフォルニア大学バークレー校化学部化学科にて日本学術振興会海外特別研究員。2010年、ローレンス・バークレー国立研究所 物理生物科学部門博士研究員。2012年3月より現職。「量子的な現象はふだんの生活で目にすることはありません。けれども僕は”自然にならえ”と思います。実験家のグループにいたおかげですよね。好き勝手言うな、自然にならえ、って。」

量子の世界をのぞいてみよう
Welcome to the Quantum World #016

  • Pages:
  • 1
  • 2
  • 3