量子情報の最先端をつたえる
Interview #021

久保結丸 インタビュー#13;
公開日:2016/07/15

研究者としての最初のまとまった成果が、超伝導とダイヤモンドで構成されるハイブリッド量子系の実験だったという、沖縄科学技術大学院大学 量子ダイナミクスユニットの久保結丸グループリーダー。インタビュー時は、前所属のサクレー研究所(CEA-Saclay, France)から転任してきたばかりで「まだ何も出せるものがないんです」と語っていた久保研究員。新しい研究設備を待つ空っぽの実験室で、これからの研究計画等についてお聞きしました。

【1】ハイブリッドをやるためにフランスへ

超伝導回路とダイヤモンドのハイブリッド

純粋なダイヤモンドは透明なのですが、中にほんの少しでも不純物があると色がつきます。窒素が入ると黄色く、NV(窒素—空孔)中心と呼ばれる欠陥があると赤っぽく、そしてボロンが含まれると青っぽくなります。ダイヤモンド中にあるこのような不純物の中には余剰な電子があって、小さい磁石みたいにくるくる回るスピンの状態にあります。微視的に見ると、このような電子スピンは量子力学的に振る舞っており、量子として扱うことができます。一方、超伝導体で電気回路をつくると、目に見えるほど大きいのですが、これを極低温に冷やすと、やはり量子と同じように振る舞います。このダイヤモンド結晶中の電子スピンと超伝導回路という、まったく異なる2つの量子系を融合させるという研究を、僕はフランスでやりました。

"冴えない"量子デバイス!?

実験を行う試料は縦3ミリメートル、横1センチメートルというサイズで、端に配線のための端子がついています。この試料を箱の中に入れ、冷凍機の中でも最も冷たい最下段にセットしてしっかり閉めます。超伝導回路に取り付けられた配線を通じて、1〜数十センチメートルの波長を持つマイクロ波信号を送信し、もう一方の端で読み出します。この実験で、まず超伝導回路上に、ある量子状態を準備し、これをダイヤモンド中にある電子スピンに転送して、保存、読み出すという操作を実証することができました。言い換えると、超伝導回路のトランジスタとダイヤモンドのRAMがつながって、量子情報の読み書き保存ができたことになります。ただし1ビットのトランジスタに1ビットのRAMで、量子情報の保持時間はわずか0.2マイクロ秒程度という冴えないセットアップでしたが……(笑)。

もし液体ヘリウムが超高級ウィスキーだったら?

このような実験を行う装置そのものにも、いくつかの変化があります。たとえば超伝導回路は極低温に冷やして実験を行う必要があり、そのために希釈冷凍機という特殊な冷却器を使用します。この冷凍機の操作を、以前はひとつひとつのバルブを手でひねって行っていました。しかし今では、ボタンひとつでコントロールできます。こんなに簡単だと、これからの学生たちは冷凍の原理を理解するきっかけがなくなってしまうのではないかと危惧するほどです(笑)。また冷やすにはマイナス269℃の液体ヘリウムが大量に必要でしたが、2000年代後半からヘリウムの価格が高騰し始め、追い打ちをかけるように2012年に世界的なヘリウム供給不足「ヘリウムショック」が起こりました。そういった状況の変化もあり、最近は今後ヘリウム供給がなくなっても実験ができるように、エアコンと同じ原理で冷やせる装置、すなわち液体ヘリウムを消費しない無冷媒式の冷凍機が主流になっています。

量子の世界をのぞいてみよう
Welcome to the Quantum World #021

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