第42週:ネコにそろばん。
2008-08-29掲載

量子コンピュータを実現する
っていうのは、どうもなかなか、
先の長い話のようです。

このややこしい量子的な性質を
活かして、コンピュータを作るには、
ともかくまず、
当の量子性がどうなっているのか
その解明が必要なわけですね。

さて今週は、
ずばりこういうテーマです。

全部量子的に動く量子コンピュータ
を考えた場合に、
その中で行われる量子計算は
どんなプロセスになるのか?

では、
さっそく始めてまいりましょう。

わたし わたしだって猫でありますので、
小判にはキョーミないのですが
そろばんにはちょっと、キョーミが……。

リョーシカ
えっ?


わたし いやその、計算というと、
無意識のうちにわたしは、そろばん
をイメージしてるんですよね。

ネコにそろばん

リョーシカ
そろばんですか。


わたし 別にそろばんができるネコってわけじゃ
ないんですけど、なんかこう、
パチパチっと計算できる感じ。

そのあとが電卓で
電卓もパチパチ、って音がするでしょ?

リョーシカ
ふむふむ。


わたし と、どうしてもパソコンの中身も、
そのパチパチッっていう
イメージになっちゃうんですよ。

でも、量子計算の場合は……
どうなのかなあ?


リョーシカ パチパチっていうのは、いいセンいってますね。
スイッチという意味では。

パチパチ音がしなくても、
計算機というのは、
スイッチの集まりみたいものですよね。
つまり、デジタルだということです。

そろばんの場合は10進法で、
コンピュータは2進法ですね。

これに対して、量子計算は
量子状態を動かして計算します。

量子状態は連続的に動きますから、
一見デジタルには見えませんが、
実はデジタルな要素をちゃんと持っています。

わたし ふうん。それで量子の場合は
どうすれば計算ができるんですか?


リョーシカ 計算が進むに従って
量子状態が答えの位置へと動いていく
ような感じですね。

わたし
ええっ! マテ・リョーシカ!

ちょっと、順番に教えてくださいよ。

まず最初の状態というのは
どういうものなんですか?


リョーシカ 最初にいれるのは初期状態です。
量子ビットが全部「0」を向いた状態です。


わたし
それからどうするんですか?


リョーシカ 量子状態が推移して、
答えの位置へ動いていくようにします。

量子状態が推移して、
量子計算が行われていく空間を
「ヒルベルト空間」といい、
計算のプロセスを
「ユニタリー変換」といいます。

ヒルベルト空間とユニタリ変換

わたし 「ヒルベルト」って人名ですよね。

ヒルベルトさん:1862年生まれ、1943年没。ドイツ人。不変式論、幾何学の公理化、ヒルベルト空間の概念、関数解析学等々……数学に新しい基礎を提供する幅広い業績を残した、19~20世紀代表する数学者の一人。

うーむ。その、
「ヒルベルト空間」って何ですか?

リョーシカ 量子状態がいる空間です。
量子状態はヒルベルト空間上の点として
表わすことができます。

わたし
量子計算の舞台なんですね?


リョーシカ そうです。
計算過程では、
量子状態が、ヒルベルト空間の中で
初期状態を表わしている点から
計算終了のところの点へ動いていきます。

この最後の点が、
解の情報をもっているわけです。
そこで、測定して読み出します。


わたし やっと、計算らしくなってきた
ような気がします。


リョーシカ はい。この測定の時、測るのは
「コンピュテーショナル・ベイシス」という
0と1量子ビットの基底状態です。

つまり、ここから得られる答えは
デジタル信号なんです。

わたし むむ、パチパチッとじゃなくて
量子の場合は、
最後に1回だけパチッてこと?

リョーシカ 測定は1回です。
なぜだと思いますか?


わたし
へっ?


リョーシカ
また来週としましょうか。


わたし
ええっ! マテ・リョーシカ!
(つづく)



週刊リョーシカ!
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いかがでしたか?
量子計算のプロセスが
イメージできたでしょうか。

量子計算が行われる舞台は
「ヒルベルト空間」である。
とここで……

やったーヒルベルト!
ヒューヒュー、ヒルベルトさん!
ヒルベルト!世界記録です。

とかリアクションできるといいんですが
スポーツの応援じゃなくて
数学の基礎理論なので
そうもいきませんしね。

ところで今回、おしまいの方では、
リョーシお得意の「測定」が、
またまたからんでまいりました。

そこで来週は、
なぜ測定が1回なのか
考えてまいりますよ。
どうぞおたのしみに。


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