量子情報の最先端をつたえる
Interview #002

佐々木雅英室長 情報通信研究機構
公開日:2012/07/10

【3】ブレークスルーはこれからだ。

工業界で使われ始めた量子的性質

可視域外の光をつかまえる装置は、実は工業界でも、使われ始めています。たとえばLSI回路の中で電流が流れると、その部位が光るんですね。このような光子は、だいたい近赤外線あたりの波長なので、この1個1個を位置情報も含めて検出しながらずっと時間軸で追いかけていきます。今はその流れを2次元グラフィックに表示させることができるので、回路の設計者が見て、設計とは異なる場所に電流が流れているから、ああここは故障しているといったような評価ができるようになってきているんです。また、時間的な情報から設計どおりのタイミングで電流が流れているかどうか、といったことも分かります。光子検出器は、もちろん量子の研究にも使われますけれども、工業的にもいろんなところで役立ってきているということですね。

量子じゃなければ測れないもの

生物の分野でも、たとえば健康との関連で時々話題になる「活性酸素」も、可視域外のある波長の光に注目すると、追うことができます。活性酸素の集まっている部位や時間的な動きをとらえることで、たとえば癌の部位を発見したり、特定の食物によってどれだけ抗酸化作用が働いているかなどがわかったりするんですね。それから量子計測についても、チームの中で「これは量子じゃないと測れない」というものがあるんじゃないか、といった議論を、今始めているところです。量子を操れると今までにない精度で測れる利点があるけれども、量子性をほんとうに際だたせるのは、別のところではないかと。そのためには光子検出器だけでなく、いい光を出せる装置も作っていく必要があるね、と考えています。

将来の大きなブレークスルーのために

このようなわれわれの道具を使って、今後量子的な現象がある程度解明されてきた時にどんな応用が生まれるだろう、と考えると……今出来ているようなものが工場などで広く使われるようになるといっただけではないと私は思いますね。これという具体的な答えはないのですが、今まったく予測されていないような技術的なブレークスルーが、いっぱいあるんじゃないでしょうか。そして、そこを目指さないと、量子をきちんと使っているということにならないんじゃないかな。楽観的に考えれば、将来かなり広範囲に何にでも応用できる研究なんだと、そう思って取り組んでいます。
(文:廣畑徹・池谷瑠絵 写真:ERIC)

廣畑徹室長代理プロフィール

浜松ホトニクス株式会社中央研究所材料研究室 室長代理。専門は半導体工学、ナノフォトニクス。1983年京都工芸繊維大学工芸学部電子工学科卒。同年浜松ホトニクス株式会社入社、約30年にわたり光子検出装置の研究開発に取り組む。「研究開発の中でエキサイティングなところは?」の質問に──「まずその現象を見つけたとき。次に製品として具体的に形になったとき。そして、それが売れたとき。若い人たちにも、ぜひこの喜びを味わってもらいたいと思っています」。

量子の世界をのぞいてみよう
Welcome to the Quantum World #002

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