量子情報の最先端をつたえる
Interview #006

サイモン・デヴィット助教 国立情報学研究所
公開日:2013/06/15

【3】ケータイ端末で『メカニクス』!?

第一世代の量子コンピュータはいつ?

正確なところはわかりませんが、量子コンピュータがいずれヨドバシやソフマップに並ぶようになる──とすれば、問題はそれが「いつか?」です。理論と実験の両面で、大きな技術的発展が成し遂げられていることは確実です。私が根本教授のグループに参加した時、われわれには量子コンピュータのためのアーキテクチャすらなかったし、100万個もの量子ビットを使った大規模量子コンピュータがどんなふうに見えるものか見当もつかなかった。5年後の現在、われわれはすべての量子ビットが時間的発展の段階ごとにどのように振る舞うのか語ることができるし、そのアルゴリズムも、エラー訂正済み100万量子ビットのデバイスについての理論構築もできるようになっています。実験面でもダイヤモンド、超伝導、シリコン、量子ドット等が軒並み、より信頼性の高い技術へと飛躍してきており、中でもイオントラップやダイヤモンドは、おそらく10年以内にシステムを作ることができるでしょう。

量子インターネットも夢じゃない!

われわれはもう、現在の「古典的な」マシンで仕事をし続ける理由はないし、量子的なマシンのほうがずっとパワフルであることを知っています。また近年、D-waveが世界に示しているのは、量子コンピュータはお金になる分野だということではないでしょうか。みんな量子コンピュータのどこに研究資金を投下すべきかと、迷っています。しかし、もし政府や大学が量子コンピュータ研究の支援を打ち切れば、企業が少しずつその役割を担っていくだろうということに、私はますます確信を深めています。仮に1,000〜10,000量子ビット程度の量子コンピュータを組み上げたとしましょう、それを大学に置いてインターネットにつないだら? そしてみんなが使えるように開放したら?……これはかなり、おもしろいことになるでしょう。

みんなを研究に巻き込みたい

ところで世界中の多くの人々が「ヒッグス粒子」を知っているし、LHC(Large Hadron Collider, 大型ハドロン衝突型加速器)のことだってきっと聞いたことがあるでしょう。これらはいずれも相当複雑な物理の話です。1990年代のアメリカで、SSC(Superconducting Super Collider, 超伝導超大型加速器)が、国民の支持が得られず頓挫したことは伝説となっていますが、一方でヨーロッパのCERNはいつもメディアに素粒子物理の話題を提供し、研究計画を継続してきたことは素晴らしいと思います。これは自説ですが、世界には3つの有望な大プロジェクトがあり、それはLHC、重力波検出、そして量子コンピュータです。われわれは量子の話題をいろいろと提供して、みんなを研究に巻き込みたい。『meQuanics』は今後、オープンサイエンスのためのデータ蓄積・解析機能をいっそう統合させ、iPhoneやAndroidをはじめとした携帯アプリケーションとして進化を遂げる予定です。これからの『meQuanics』に、ぜひ注目してください。
(文:サイモン・デヴィット・池谷瑠絵 写真:ERIC)

サイモン・デヴィット助教プロフィール

国立情報学研究所 情報学プリンシプル研究系助教。専門は量子コンピューティング。中でも大規模量子コンピュータのアーキテクチャーおよびリソースの最適化に取り組む。豪州メルボルン大学在学中に英国ケンブリッジ大学で研鑽を積み、メルボルン大学にて博士号を取得。2007年より国立情報学研究所量子情報科学(理論)グループ(QIST)に参加。「物理学者や技術者が最初のCPUを開発したとき、誰が今のWorld Wide Webを考えただろう」と彼は言う──"Quantum computer is inevitable. It will happen"。また故郷のオーストラリアには生物学や癌研究、電波天文学、LHCなどいくつか強い分野があり、量子コンピュータへの関心も強い、と現地での『meQuanics』の盛り上がりにも期待する。

量子の世界をのぞいてみよう
Welcome to the Quantum World #006

  • Pages:
  • 1
  • 2
  • 3