量子情報の最先端をつたえる
Interview #007

清水亮介 特任准教授 電気通信大学
公開日:2013/08/15

情報社会といわれる今日、日進月歩で発達してきた「光技術」は、科学技術の世界で幅広く、決定的な役割を果たしてきたと言えるでしょう。ところでその一方で量子情報の分野も、特に今世紀に入ってからさまざまな実験的成果が現れ、量子的な制御の可能範囲が飛躍的に拡大しました。その最初期に個別の量子系に対する計測・制御の実験方法を確立した業績に対して、2012年にセルジュ・アロシュ氏とデービッド・ワインランド氏にノーベル賞が贈られたことは、記憶に新しいところではないでしょうか。さて今回は「周波数量子もつれ光子」の実験に取り組む、電気通信大学の清水亮介特任准教授にお話をうかがいました。清水准教授は、院生時代、量子力学だけでなく量子情報科学も学べる環境にあった最初の世代にあたります。情報世代の物理学者がとらえる光の世界に、今、来るべきどのような変化が見えてきているのでしょうか──さっそくおうかがいしましょう。

【1】デジタルな光の教えかた

波である電磁波と、粒としての光子

光をどう見るか、一般的によく知られているのは電磁波だという見方ですね。古典的な電磁波としての光は、振幅が一定で、振動するような描像で表現されます。人間の目は、その特定のスペクトルを感知でき、また光の強さは、波の振幅・振動の大きさで表すことができます。これに対して、光を光子(フォトン)として見ると、光をひと粒ひと粒、数えられるものとして見ることができますね。このように見た場合、光の強度とは、光の粒が何個入っているかという情報だと言い換えることができます。

フォトンは気まぐれにやってくる

すると、この2つの見方で光の強度を見たとき、「波の振幅」と「粒の数」は対応する物理量ですね。したがって振幅が一定なら、その光のパルスの中にある粒の数も一定だというふうに思うんですけれども、ところが量子力学では粒の数に必ずばらつきが出てきます。平均すれば1つのパルスの中に1,000個あるというふうには決まるんですけれども、1,000個入ったパルスが必ず来るのではなくて、1つ1つを調べると10個少ないとか100個多いといったように、必ずゆらぎがあります。しかし通常は、光の強度に対して、ゆらぎがとても小さいんですね。強度が強くなればなるほど、ゆらぎ自体は大きくなるものの、含まれる割合としてはどんどん小さくなっていくので、ゆらぎはないものとして扱っても問題は起こりません。ところが、ひとつのパルスの中に入っている光が10個、究極的には1個となってくると、これはもう、ゆらぎの大きさが無視できない量子領域に入ってくるわけです。

光の粒のばらつきをコントロールする

そこで、このようなフォトン数個程度といった量子領域で、光の粒のばらつきをコントロールできるようにしようというのが、まず1つの目標になります。これを光子統計性の制御といい、具体的には1つのパルスの中にフォトンが1個入っている状態を実現する「単一光子光源(シングルフォトンソース)」という研究が盛んです。現在すでに、いろいろな方法による単一光子光源がつくられています。しかし実際に実験を行うと、レーザー光を弱めただけの光では、どうしても1パルスの中に光子が2〜3個入っているものが混じってしまうんですね。私たちの実験では、この確率をずいぶん減らすことができたんですけれども、逆に光子が1つも入っていない空のパルスの割合が結構高く、どう減らしていくかがこれからの課題です。

光の検出の方法には2種類ある

また光子を受け取る方法にも、大きく2種類あります。ひとつは「ホモダイン検出」という、来た光をまるごと受けてしまうアナログ的な検出方法で、スクイーズド光の測定などに使われています。一方、光子の数を数える「フォトンカウンター」はデジタル的な測り方で、私の実験室で「周波数量子もつれ光子」を測るのに使っています。このような道具立てで、まずは粒のばらつきをコントロールしようというわけですね。そして次に重要なことは、このような扱い方をすると、光の粒と粒がお互いどういう関係性を持っているのかを論じられるようになってくるということです。光を統計的に取り扱う電磁波としての見方では、取り扱うことができなかった光子の関係性──つまり「量子もつれ」を、いよいよコントロールしていこうと思っています。

量子の世界をのぞいてみよう
Welcome to the Quantum World #007

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