量子情報の最先端をつたえる
Interview #013

伊藤公平教授 慶応義塾大学
公開日:2014/10/14

【3】いよいよ材料学の出番だ

シリコン量子ドットのこれから

28Si同位体のシリコンウエハーを使って、リン1個の測定を行ってすごくよい成果が出てきた─このニュースには、僕らとしても驚きがあったんですね。シリコンウエハーの上にリンを1つ入れるとなると、すごく表面に近い。ところがシリコン表面には欠陥がいろいろあって、電子スピンにいろんな悪影響を与えるはずなんです。さらにその上に金属を付けなければならなかったりして、これがまた電子スピンに悪さをする。そのような問題を大きく乗り越えて、同位体が効果を発揮するということまでは予想していませんでした。この点、電極をつけた量子ドットの成果も同様です。とにかくうれしいニュースでした。

ダイヤモンド量子計測のこれから

ダイヤモンドのほうも、表面近くに電子スピンを置けるようになったので、これを使って水素のNMRの測定を行ってみたところ、1個のセンサーで約6,000個の核磁場を測定することができました。これだと電子1個で水素6,000個を測っているわけですが、最終的には分子1個1個にアクセスして、水素1個の核磁場が測れますよ、というところまでいければ最高ですね。その際、電子スピン1つを測定する対象に近づけることによって、どうしても対象との相互作用、すなわちエンタングルメントが起こることを考えなければいけません。対象の核スピンとセンサーの電子スピンを同時に操作して、どのようなエンタングルメントを生成し、それによってどう測定するかといった開発が必要になると考えています。それにしても、表面の近くに電子を置くといった技術は、まさに材料科学ならではのブレークスルーが期待されるところと言えるでしょうね。


(文:伊藤公平・池谷瑠絵 写真:ERIC)

伊藤公平教授プロフィール

慶應義塾大学物理情報工学科教授。1989年慶應義塾大学理工学部計測工学科卒、1994年Ph. D. in Materials Science(カリフォルニア大学バークレー校)取得。専門は半導体同位体工学、量子操作、スピントロニクス、結晶工学。米国ローレンスバークレー国立研究所特別研究員を経て、1995年慶應義塾大学理工学部助手、2002年助教授、2007年から現職。2006年から東京大学特任准教授(ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構)を兼任。長年研究を積み重ねてきた28Si同位体によるシリコンウエハーが、今世界的な注目を浴びつつある。趣味はテニス。OBでもある学内のテニス部の試合には、コートサイドまで応援に駆けつける。

量子の世界をのぞいてみよう
Welcome to the Quantum World #013

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