2008-02-29掲載
前回予告していた「シュレ猫」こと
「シュレーディンガーの猫」というのが
今回のお話。
まず「シュレーディンガー」とは、
1887年に生まれ、1961年に亡くなった
オーストリアの理論物理学者の名前。
詳しくはまた終わりのところでご紹介するとして、
その彼が考えた、ちょっと怖い思考実験が、
「シュレーディンガーの猫」なのであります。
「猫」というからにはこの実験、猫が主役。
というより、ずばり猫の生死が焦点です。
まず猫を一匹用意して、
箱に閉じこめておきます。
それから毒ガスをいれたビンをひとつ。
そして放射性物質と、放射線検出器。
──と、なかなか物騒な道具立てなので
必ず「頭の中で」ご用意くださいね。
ではさっそく見ていきましょう。
むむむ。今週は「半死半生の猫」ということで
首を洗うと見せかけて、
わたし、調べてまいりましたよ。
ふむふむ。
図のような装置を考えます。
装置が作動する流れに沿って説明すると、
まず最初が放射線物質です。
放射線物質を放出する物質として、
たとえばラジウムなどを置いておきます。
だけれども放射線は
出るかも知れないし、出ないかも知れない。
「シュレーディンガーの猫」実験装置1
ええ。確率的に出ますね。
はい。出なければなにも起こらない。
ところが出ると──
待ちかまえていた放射線検出器が、
これを感知します。
そうですね。
検出器は、箱の中にあるスイッチと
連動していますよ。
スイッチがONになると、
箱の中にセットされている
毒ガスのビンが割られて、
箱の中に毒が充満します。
生き物はみんな、死んでしまう猛毒です。
ふむ。
ところが、箱の中には、猫がいます!
そうですね。
あれっ! ちょっと待てよ……
で、どこがパラドックスなんでしたっけ?
シュレーディンガーの猫のパラドックスは
なんら不思議がないことがわかっていますので
今はもうパラドックスではないんですよ。
放射線が放出されたら、猫は死ぬ。
されていなければ、猫は生きている。
二つに一つですよね。
でも問題は量子の
「重ね合わせ」
だったじゃないですか。
重ね合わせが本当だとすると、
猫だって半死半生、つまり
生きてるほうがいくぶんか、
死んでいるほうがいくぶんか、
という状態になりそうな気がするけどなあ。
化けて出るぞお~という……
これがほんとの「化け猫」状態!
そうですか?
よく思いだしてください。
キーワードは
「デコヒーレンス」
ですよ!
……
ではたとえば、猫は量子的ですか?
わたしは量子猫じゃありません。
違うでしょ。
まさに
デコヒーレンス
してますよね。
量子的な猫なんか現実に見たことありますか?
ないでしょう?
だからシュレーディンガーのこの猫も
デコヒーレンスしていると考えられます。
では、いったい、
どこからデコヒーレンス
したんでしょうか?
はっ!
なんか、わかりそう!
この装置が作動する最初のところから、
ひとつずつ見ていきましょう。
ええと、ええと
最初は放射線の放出のところです。
はい。ここはたいへん量子的です。
検出するとスイッチが作動して……
ほら、もうデコヒーレンスしていませんか?
毒ガスのビンを割るという動作は
「重ね合わさって」いません。
ああ、ここでもう
デコヒーレンスしちゃってるのか。
ビンが割れて、毒ガスが放出されるのも
量子的なふるまいではないし、
それによって猫が死に至るというのも
ぜんぜん量子的ではありません。
そうかあ。
わかってしまうとなんでもないですが、
箱の中の猫は死んでしまったのか、
それとも幸いにも生きているのかは
要するに、
箱を開けてみなければわからないですよね。
でももうどちらであるかは
決まってしまっている。
そういう確率的な状態と言えます。
──ではまた、来週。
おっと、待て、
(つづく)
「思考実験」といえば、
少し前の
第13週
の、
ハイゼンベルクの不確定性原理
のところでも出てきました。
シュレーディンガーも、
ハイゼンベルクとほぼ同時期に
活躍した物理学者で、
この「シュレ猫」のほか、
「波動方程式」
を発案したことでも有名です。
1933年には、ノーベル物理学賞を受賞。
量子の世界を集大成する学問「量子力学」を
作りあげる時期に、
重要な業績を残した科学者なんですね。
というわけで来週も、
スキッとわかるリョーシ、
を目指してまいりますよ。
──次週もどうぞお楽しみに。
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