量子情報の最先端をつたえる
Interview #012

藤原幹生主任研究員 東京大学
公開日:2014/07/15

【3】セキュリティを街ぐるみで支える

インプリメンテーションが重要だ

そこでわれわれは実装化へ向けて、やはり万人に利用可能なソリューションを提供していかなければならない、と考えています。ところが暗号技術、なかでも物理暗号に特有の問題があって、正しいことが証明されていても、それはインプリメンテーション(実装化)次第だということです。なるべく理想に近いコンディションをつくり、証明通りであることを担保する合理性を持たせなければなりません。というのも現実には伝送路の状態、人為的なミス、といったさまざまなアクシデントがあり、これらを包み込めるようなシステムでなければ、まさに「絵に描いた餅」だからです。60年前にわかっていた「ワンタイムパッド」がいまやっと使えるようになったのも、これまでは非常にコストが高いやり方でしか実装化の方法がなかったためです。今回のシステムで言えば、たとえば量子鍵配送装置では、送り出す1光子1光子の量子状態を準備する段階が非常に重要であり、本当に意図通りになっているのか、常に厳しいチェックを欠かすことができません。

壊れやすい量子が、データを守る

量子状態は非常に壊れやすく、ちょっとした妨害にも─たとえば観測しようとするだけでも─すぐに変化してしまう性質を持っています。しかしながらこの性質が同時に、少しでも盗聴されたり、コピーされたりしたら感知できるという、大きなメリットとして通信に活かすことができるのです。しかもいったん鍵を共有すれば、量子的な状態を意識することなく、自由に使いこなすことができます。今回は、検査結果などの個人情報を守り、同時に医療関係者にアクセス権を持たせて統計的情報がとれるようなシステムを考えましたが、他にも応用例として、個人情報をセキュアに取り扱いながらビッグデータ活用する、地域を核としたシステムを、いろいろ考えることができます。QKDは半径およそ50キロ圏のネットワークを構築できるので、ICTを軸としたスマートタウンなどの構想にもソリューションを提供することでしょう。


(文:藤原幹生・池谷瑠絵 写真:ERIC)

藤原幹生主任研究員プロフィール

独立行政法人情報通信研究機構 未来ICT研究所 量子ICT研究室 主任研究員。博士(理学)。専門は、光検出技術。大学院修士課程修了後、1992年郵政省通信総合研究所(現NICT)に入所。衛星搭載用遠赤外検出器、光子数識別器、極低温エレクトロニクスの研究に従事。研究室ではフィールド実験を重ねてきたが、実際の応用化をにらんだ今回の成果は、特に反響も大きいとのこと。「やればできるでしょうというのは、本気を出したらすごいんだよというのと同じ。安定して動くんだという実証を、誰かがやらなければいけない」。

量子の世界をのぞいてみよう
Welcome to the Quantum World #012

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