第5週:リョーシとチョコレート。
2007-11-23掲載

推理小説では、犯人にはアリバイがある。
というケースがよくありますよね。
"殺人とアリバイとどちらが真実か?"
これを解決したくて、つい読み進んでしまいます。
ところがこれがもし、
「どちらも真実です、ちゃん ちゃん」
なんて言われたら、お話にもなりませんよね。

ところが量子(リョーシ)って、
どうもそういうものらしいんですよ。

じゃあリョーシって、
お話にもならないものなのか?

そんなわけで今週は、
まずは先日わたしが観てきた映画のDVDの話から
始めたいと思います。

わたし
リョーシカは映画とか観ますか?


リョーシカ
映画観る機会ですか……あまり多くないですね。


わたし わたし、先日DVDでさる映画を観ていたらですね、
なんと「波と粒子」が出てきたんですよ!


リョーシカ
へえ、そうですか。


わたし その映画の名は、
『チャーリーとチョコレート工場』
っていうんです。

リョーシカ
ふむふむ。


チャーリーとチョコレート工場のウォンカチョコ
わたし
ほんとに観たことないんですか?


リョーシカ
ええ。


わたし ウォンカというチョコレート開発の天才が、
何人かの子供たちを自分の工場に招待するんです。
いろんな不思議な機械や
チョコレートの製造工程がでてくるんですが
そのうち「テレビ室」という部屋に入って、
自分の発明について説明するんですね。
ところで、これがたぶん、
「量子テレポーテーション」の話なんですよ。

チャーリーとチョコレート工場のペーパーバック
こちらが原作。

リョーシカ
ふむふむ。


わたし ウォンカが波であり、粒子である、
英語だと「ウェーブ(wave)」であり
「パーティクル(paricle)」である、と言うと
科学少年がおかしなことを言うな、
と反論するんですね。
その2つが相反することは物理学の常識だと。

リョーシカ
その通りです。


わたし で、その子は結局、非常識な、
別の世界へ行っちゃうんですけどね。
詳しくは映画を観てのお楽しみということで。

リョーシカ なるほど。面白そうですね。
量子が、非常識な考え方であるとか、
あり得ないふるまいをするものだといったことは
英語圏では、ごく軽い冗談として
結構浸透しているように感じますね。

先週も話しましたように、
波であって粒子であるというのはあり得ない、
ということがまず前提としてあるわけです。

わたし それについてはですね、
ほらよくあるじゃないですか、
こっちを立てれば、あっちが立たない。
あっちが立てば、こちらが立たない。
という状態だということですよね。

犯人とアリバイ、波と粒子

リョーシカ そうです。
ところがある物が、
ある時測ってみたら粒子だった。
さらにその同じ物が
波であるという証拠が見つかってしまう。

わたし それこそ"アリバイは果たして真実なのか?"
というやつですね。


リョーシカ そこなんです。
ところがこれは両方真実なんですよ。


わたし
困ったことに。


リョーシカ おもしろいことに。

するとストーリーは一歩前へ戻って
私たちがこれまで正しいと思ってきた
常識のほうを疑わなければならないわけです。
今まで‘当たり前に’正しいと
基準にしてきたことこそ間違っているんです。

波と粒子は両立しないという考えが間違っていて
真実、両立するんですから。

わたし うーん……。
リョーシって、頭の"しん"が疲れますね。


リョーシカ そうかもしれません。
私たちにとって常識と呼べるほどに
当たり前な考え方を変えるのって、
実はたいへんに厄介なことらしいんですよ。

「あなた、ご自分を会社員と思って
いらっしゃるかもしれないけど、
同時にスーパーマンなんですよ
って言われたらビックリしませんか?

わたし 自分の周りをうっすら見回しちゃいますね。
しかもそれが真実だ、なんて。


リョーシカ この常識を変えるということが
やはり人間にはどうも難しいらしいんですよ。


わたし
らしいって、リョーシカは違うんですか?


リョーシカ いえ、私も例外ではありませんが、
私たちは量子のほうを専門に
ずっと考えているんですよ。

わたし
ああ、常識のほうでなく。


リョーシカ ええ。もうずっとあちら側ですから……
というわけで、私、そろそろ
……行ってきます……失礼!

わたし
え? ちょっと、マテ・リョーシカ!
(つづく)



週刊リョーシカ!
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わたしたちの世界では、
会社員であると同時に
スーパーマンであるということは
映画の中でしか起こりません。

犯人であると同時に犯人でない、
ということは映画の中でさえ起こらない。

そんなの「科学」じゃない、
お話にもなってないじゃん、
とわたしたちは考えます。

いやはや、リョーシって、かなり非常識。

ちなみに「チャーリー……」の本のほうには、
実は波と粒子のことは書いていないんですよ。
この原作の最初の出版が1964年といいますから
この映画が製作された2005年までの間に、
量子の知識のうち常識となった部分が
盛り込まれたと言えるかもしれませんね。

さて。というわけで
来週もどうぞお楽しみに。

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